特別区の論文試験|過去25年50問を分析した傾向と対策
特別区の採用試験で、論文は避けて通れません。しかし「何が出るのか」「どの分野から準備すればよいのか」は、断片的な情報だけでは判断しにくいものです。この記事では、2002年度から2026年度までの25年分・全50問(事務等)を一問ずつ分野に分類し、出題の構造をデータで整理しました。
この記事の役割
この記事は「出題傾向から、何を優先して準備するか」を決めるための記事です。試験形式、時間・字数配分、序論から結論までの書き方を先に知りたい方は、特別区Ⅰ類 論文試験の概要と書き方をご覧ください。
読み終えたときに、次の3つが分かるようにしています。
- 特別区の論文が、都庁や国家一般職とどう違うのか
- どの分野から優先して準備すればよいのか
- 2題のうち、どちらを選ぶ準備をすればよいのか
この記事の内容
試験の形式
令和8年度の特別区Ⅰ類採用試験(春試験)では、事務(一般事務)と事務(ICT)の論文は次の形式です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出題数 | 2題中1題を選択 |
| 解答時間 | 1時間20分(80分) |
| 字数 | 1,000字以上1,500字程度 |
| 設問の構造 | 単一設問(小問に分かれていない) |
| 資料 | なし |
| 問題冊子 | 持ち帰り可 |
課題文は背景を示した後、「特別区職員としてどのように取り組むべきか」という形で考えを求めます。この「特別区職員として」という条件が、一般的な社会評論と行政職の答案を分けます。
※ 形式と令和8年度の出題は、特別区人事委員会の試験案内および公表論文課題で確認しています。受験年度の案内も必ず確認してください。
都庁・国家一般職との違い
| 特別区Ⅰ類 | 東京都Ⅰ類B | 国家一般職(行政) | |
|---|---|---|---|
| 時間 | 80分 | 90分 | 60分 |
| 字数 | 1,000〜1,500字程度 | 1,000〜1,500字程度 | 指定なし |
| 出題数 | 2題中1題選択 | 1題必答 | 1題必答 |
| 設問 | 単一設問 | 課題200字+取組 | 資料を踏まえた複数の問い |
| 資料 | なし | あり | あり |
特別区の特徴は、資料がないことと2題から選べることです。東京都Ⅰ類Bの段落構成を詳しく知りたい方は、東京都Ⅰ類B 教養論文の書き方で比較できます。
特別区は「準備が報われる」試験です
論文対策で最初に切り分けたいのは、どこまで事前に用意でき、どこからが本番でしかできないのかです。答案は、おおむね次の要素で構成されます。
- どの分野の話かを判断する
- 現状を述べる
- それがなぜ問題なのかを述べる
- 原因を分解する
- 原因ごとに取組を挙げる
このうち3〜5は、分野ごとに事前に準備できます。問題は1と2です。
都庁では2つ、特別区では1つ
東京都Ⅰ類Bには資料が付きます。受験者は資料から分野を判断し、数値や傾向を自分の言葉に置き換えて現状を書きます。特別区には資料がありません。代わりに、課題文の前半が背景を説明します。
| 作業 | 東京都Ⅰ類B | 特別区Ⅰ類 |
|---|---|---|
| 分野の判断 | 資料から読み取る | 課題文に示される |
| 現状の記述 | 資料の数値を言い換える | 課題文の背景を材料にできる |
| 弊害・原因・取組 | 事前に準備できる | 事前に準備できる |
本番で初めて行う作業が、都庁では「資料から分野を判断する」「資料から現状を作る」の2つあるのに対し、特別区では分野と背景が課題文に示されます。事前に用意した原因と取組を答案へつなげやすい試験だといえます。
2題から選べることの意味
1題必答なら、準備した分野が出るかどうかは一度きりです。特別区は2題あるため、そのどちらかに準備した材料を使えればよいことになります。すべての分野を薄く広く暗記するより、一定数の分野を深く準備する戦略が成立しやすくなります。
ただし、①番と②番は同じ性格の問題が2つ並んでいるわけではありません。過去問を分けて集計すると、違いが見えます。
出題分野の頻度|25年分を数えた結果
2002年度から2026年度までの50問を、当サイトで13分野に分類しました。複数分野にまたがる問題も、中心となる問いを1つ選んで数えています。
| 順位 | 分野 | 件数 | 構成比 | 累積 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 行政運営・協働・自治 | 10 | 20.0% | 20.0% |
| 2 | まちづくり・都市基盤 | 6 | 12.0% | 32.0% |
| 3 | こども・教育 | 6 | 12.0% | 44.0% |
| 4 | デジタル化・情報発信 | 5 | 10.0% | 54.0% |
| 5 | 防災・危機管理 | 4 | 8.0% | 62.0% |
| 6 | 環境・資源循環 | 3 | 6.0% | 68.0% |
| 7 | 防犯・安全 | 3 | 6.0% | 74.0% |
| 8 | 産業・雇用・働き方 | 3 | 6.0% | 80.0% |
| 9 | 高齢・福祉 | 3 | 6.0% | 86.0% |
| 10 | 多様性・共生 | 2 | 4.0% | 90.0% |
| 11 | 地域コミュニティ | 2 | 4.0% | 94.0% |
| 12 | 観光・シティプロモーション | 2 | 4.0% | 98.0% |
| 13 | 人材・担い手 | 1 | 2.0% | 100.0% |
上位6分野で全体の68%を占めます。まず上位分野から原因と取組を準備し、その後に自分の得意分野を追加するのが合理的です。
1位が「行政運営・協働」であることの意味
行政運営・協働は10件で、2位の6件を大きく上回りました。住民との協働、区政運営、説明責任、限られた行政資源、行政情報の発信、デジタル化、団体との連携など、個別政策ではなく「行政はどう仕事を進めるか」を問う問題が繰り返されています。
都庁の政策分野対策だけでは、この型への準備が薄くなりがちです。特別区用に、住民との協働、関係者調整、行政資源の配分、情報発信といった材料を持つ必要があります。
2題のうち、どちらを選ぶか
25年分の50問を①番と②番に分けて集計すると、問題の置かれ方に明確な差がありました。
| ①番の問題 | ②番の問題 | |
|---|---|---|
| 「行政・区政のあり方」を問う型 | 14 / 25(56%) | 0 / 25(0%) |
当サイトの分類では、②番に「行政・区政のあり方」型が置かれた年はありませんでした。さらに2018〜2026年度の9年に絞ると、①番は9回中7回がこの型です。一方、②番は防犯、防災、いじめ・不登校、人材活用、地域コミュニティなど、個別の政策分野が続きます。
①番向けと②番向けに分けて準備する
- ①番向け:行政運営・協働を1〜2本用意する
- ②番向け:まちづくり、こども・教育、デジタル化、防災など上位の個別分野を2〜3本用意する
この分け方なら、同じ種類の答案を2題分用意するのではなく、性格の違う2枠へ材料を置けます。ただし、これは傾向であって出題の保証ではありません。①番に個別政策が出た年もあります。
当日の選択基準は、好きなテーマかではなく、原因と具体的な取組を3組書けるかです。
時事は「前年の秋から当年の春」を追う
論文対策で迷いやすいのが、時事をどこまで追うかです。特別区では、課題文が制度や社会状況の時点を示すことがあります。
| 年度 | 課題文が挙げた時事 | 出来事の時点 |
|---|---|---|
| 2025年度① | 東京都カスタマーハラスメント防止条例の施行 | 2025年4月 |
| 2025年度② | 能登半島地震の災害関連死 | 2024年1月以降 |
| 2026年度② | 刑法犯認知件数の増加と体感治安 | 2024年10月調査 |
東京都カスタマーハラスメント防止条例は2025年4月1日に施行され、同年度の第一次試験は4月20日に行われました。施行から19日後の出題です。ニュースを漫然と追うより、前年の秋から当年の春に施行される国の法令や東京都の条例を確認するほうが候補を絞れます。
都庁と比べると、追い方が違う
東京都Ⅰ類Bでは資料の出典日から話題の時期を判断します。当サイトで都庁の過去問に使われた新聞資料の日付を調べたところ、試験日までの間隔はおおむね3.5か月から9か月に分散していました。特別区では課題文に時点や制度名が示されるため、現状の説明を作りやすいのが違いです。
ただし、制度名を暗記するだけでは答案になりません。新制度が扱う課題について、住民、地域の担い手、行政の仕組みという3方向で原因と取組を考えておく必要があります。