【はじめに】特別区Ⅰ類 論文試験の概要と書き方|80分で書き切る基本
特別区Ⅰ類の教養論文は、80分で2つの課題から1つを選び、1,000字以上1,500字程度で論じる試験です。テーマを見てから考え始めると、課題選びと構成だけで時間を使ってしまいます。反対に、選び方・段落構成・特別区らしい取組の作り方を先に決めておけば、当日の作業は大きく減らせます。この記事では、試験の全体像と、答案を書き始める前の10分から結論までの基本手順を解説します。
この記事の役割
この記事は「試験概要と書き方の基本」を理解するための記事です。過去25年50問の出題頻度、傾向、優先して準備する分野を知りたい方は、特別区の論文試験|過去25年50問を分析した傾向と対策をご覧ください。
1. 特別区Ⅰ類の論文はどういう試験か
令和8年度の特別区職員Ⅰ類採用試験(春試験)では、事務(一般事務)と事務(ICT)の論文は1時間20分、2題中1題を選択し、1,000字以上1,500字程度で解答します。事務(ICT)も一般事務と同じ論文問題です。
| 項目 | 令和8年度の形式 |
|---|---|
| 試験時間 | 1時間20分(80分) |
| 課題 | 2題のうち1題を選択 |
| 字数 | 1,000字以上1,500字程度 |
| 対象 | 事務(一般事務)・事務(ICT)は共通問題 |
令和8年度は、地域の課題解決に向けた団体との連携と、安全・安心なまちづくりに向けた防犯対策という2つの方向から出題されました。どちらも単なる知識の説明ではなく、状況を踏まえ、特別区職員としてどう取り組むかを問う形です。
最初に覚える数字
80分・2題から1題・1,000〜1,500字。この3つです。字数の下限を割らず、最後まで書き切るには、本文を書き始める前に使える時間は10分程度しかありません。
※ 試験形式は年度によって変わる可能性があります。受験年度の試験案内を必ず確認してください。出典:令和8年度 特別区職員Ⅰ類採用試験(春試験)案内、令和8年度 論文課題
2. 東京都Ⅰ類Bとの違いを先に押さえる
東京都Ⅰ類Bの資料型論文に慣れている人ほど、ここを混同しやすくなります。東京都では資料から課題を読み取る設問と、都の取組を論じる設問が分かれています。一方、特別区の論文は、課題文を踏まえて自分で問題を整理し、取組までを1本の文章に組み立てます。
| 東京都Ⅰ類B | 特別区Ⅰ類 | |
|---|---|---|
| 出題の入口 | 資料を読み取る | テーマを示す課題文を読む |
| 設問構造 | 課題の把握と取組が分かれる | 問題提起から取組まで一続きで論じる |
| 自治体の主語 | 東京都 | 特別区・特別区職員 |
| 当日の選択 | 原則、提示された問題に解答 | 2題から1題を選ぶ |
ただし、答案の骨格は大きく変わりません。現状を述べ、課題が生じる原因を整理し、その原因に対応する取組を書く。違うのは、資料の数字が骨格を与えてくれるのではなく、自分で論点を絞る必要があることです。
特別区論文では、知っていることの多さより、1つの課題に話を絞れるかが重要です。
3. 2題のうち、書ける1題を3分で選ぶ
課題選択は「興味があるか」ではなく、取組を3つ具体的に書けるかで決めます。冒頭から順に丁寧に読み込み、なんとなく好みのテーマを選ぶと、途中で材料が切れることがあります。
問題冊子を開いたら、各課題について次の4点を余白に書き出してください。
- 問題の中心を15字程度で言えるか
- 原因または障壁を3つ挙げられるか
- 区ができる取組を3つ挙げられるか
- 各取組の対象者と実施方法まで言えるか
4点すべて埋まる課題を選びます。両方埋まる場合は、実際の区の仕事として書きやすいほうを選びます。反対に、知識はあっても「重要である」「周知すべきである」しか出てこない課題は避けます。
3分で作る選択メモ
課題A:原因 ○○/△△/□□ 取組 ○○支援/連携/基盤整備
課題B:原因 ○○/△△/思いつかない 取組 啓発/啓発/思いつかない
→ 課題Aを選ぶ
4. 答案の設計図は「課題 → 原因 → 取組3つ → 結論」
選んだ後は、いきなり本文を書きません。答案用紙とは別の場所に、次の6行だけを作ります。
| 段落 | 書く内容 | 役割 |
|---|---|---|
| 序論 | 現状・問題・取組3つの予告 | 答案の地図を示す |
| 本論① | 原因① → 取組① → 効果 | 住民・当事者への働きかけ |
| 本論② | 原因② → 取組② → 効果 | 地域の担い手への支援 |
| 本論③ | 原因③ → 取組③ → 効果 | 連携・制度・基盤づくり |
| 結論 | 3点のまとめと職員としての姿勢 | 論を閉じる |
本論は、意識・担い手・仕組みの3方向に分けると偏りにくくなります。たとえば防犯なら、住民への情報提供、地域団体の活動支援、警察や事業者との情報共有基盤という形です。3つとも啓発にすると、表現を変えても同じ取組を繰り返した答案になります。
重要なのは、原因と取組を1対1で対応させることです。「情報が届いていない」が原因なら、必要な人に届く情報提供を行う。「担い手が足りない」が原因なら、担い手の募集・育成・活動支援を行う。この対応があるだけで、取組の羅列が論理のある文章に変わります。
5. 80分の時間配分と字数配分
おすすめは、選択と構成に10分、執筆に60分、見直しに10分です。構成時間を惜しんで書き始めても、途中で順番を直したり、3つ目の取組を考えたりすれば、かえって時間を失います。
| 工程 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 課題選択 | 3分 | 原因と取組を3つ出せるか比較する |
| 構成メモ | 7分 | 序論・本論3段落・結論を6行で置く |
| 執筆 | 60分 | 1分20〜25字を目安に書く |
| 見直し | 10分 | 字数、誤字、主語、番号、結論を確認する |
全体は1,250〜1,350字を狙うと扱いやすくなります。1,000字ぎりぎりでは説明不足になりやすく、1,500字いっぱいを狙うと時間切れの危険が上がるからです。
1,300字で書く場合のめやす
序論 ……………………… 180〜220字
本論①②③ ………………… 各280〜300字
結論 ………………………… 140〜180字
1つ目だけ400字を超え、3つ目が150字で終わる答案は、内容以前に構成のバランスを崩します。本論3段落の行数をおおむね揃え、残り30分の時点で本論②まで、残り15分の時点で本論③まで終える位置を目安にしてください。
6. 序論:問題提起と3点の予告を書く
序論は、課題文の要約だけで終わらせません。書くのは、①背景・現状、②放置した場合の問題、③取り組むべき3点の予告です。
序論の骨格
特別区では【現状】が進んでいる。これを放置すれば【住民生活・地域社会への影響】が生じるおそれがある。そこで特別区は、【取組①】、【取組②】、【取組③】を進める必要がある。以下、順に述べる。
課題文に書かれている背景を長く写す必要はありません。採点者が知りたいのは、状況を踏まえて何を問題と捉え、どこへ論を進めるかです。序論の最後で3つを予告しておけば、本論の順番が固定され、書きながら迷いにくくなります。
7. 本論:原因1つに、取組1つを対応させる
本論1段落は、原因 → 区の取組 → 実施方法 → 効果の順で書きます。この4つが入れば、280〜300字程度になります。
本論1段落の骨格
第一に、【取組名】である。現在、【原因・障壁】により、【対象者】が【困っている状態】にある。そこで区は、【連携相手】と連携し、【対象者】に対して【具体的な手段】を行う。さらに、【利用しやすくする工夫】を加える。これにより、【原因がどう解消されるか】につながる。
「支援を強化する」「連携を図る」だけでは、取組の名前しか書けていません。誰に、誰と、何を、どの方法で届けるかまで書いて初めて具体策になります。窓口を設けるなら、来庁できない人にどう届けるのか。情報を発信するなら、情報から取り残されやすい人にどう届けるのか。実施場面を一歩先まで考えてください。
また、実在する事業名を暗記していなくても構いません。対象と方法が具体的で、区の権限に収まり、原因に対応していれば論は成立します。曖昧な事業名を無理に書くより、内容を自分の言葉で説明するほうが安全です。
8. 「特別区職員として」の視点を入れる
国や東京都にも通じる一般論だけでは、「特別区職員として」の問いに十分答えられません。各取組に、次のうち1つを入れると、特別区の仕事として読める答案になります。
| 視点 | 答案への入れ方 |
|---|---|
| 住民に近い | 相談、福祉、子育てなど日常の接点からニーズを把握する |
| 地域差がある | 人口構成、昼夜間人口、地域資源など各区・地域の実情に合わせる |
| 多様な主体がいる | 町会・自治会、NPO、学校、商店街、事業者、医療機関等と協働する |
| 区を越える課題がある | 都や他区、警察、関係機関と情報や好事例を共有する |
| 取り残さない | 高齢者、障害者、外国人、子育て世帯など届きにくい人への手段を用意する |
ただし、「23区で一律に実施する」と書けばよいわけではありません。基礎自治体として地域の実情に合わせる部分と、広域で共有したほうがよい部分を分けることが大切です。たとえば相談は身近な区が担い、区を越えて起きる課題のデータや好事例は都・他区と共有する、という役割分担なら自然です。
区の権限に収める
法律改正、全国一律の税制変更、社会保障制度そのものの改正は、区だけでは実行できません。同じ狙いを区の取組に直すなら、相談体制、情報提供、助成、モデル事業、地域団体への支援、関係機関との協定、人材育成などに置き換えます。国への要望を書く場合も、それだけで3つの取組を埋めず、まず区が自らできることを示してください。
9. 結論:新しい話を出さずに締める
結論は140〜180字で十分です。序論で予告した3点を短くまとめ、区が取り組む意味と、職員としての姿勢を書きます。ここで4つ目の取組を出す必要はありません。
結論の骨格
以上の取組を、地域の実情に応じて着実に進めることが重要である。そのため私は、住民の声を丁寧に捉え、関係機関や地域の多様な主体と協働しながら、誰もが【目指す状態】を実感できる特別区の実現に取り組んでいく。
職員としての決意を長く書きすぎると、根拠のない精神論になります。「熱意を持って全力で取り組む」よりも、住民の声を捉える、関係者と調整する、効果を検証して改善するといった仕事の進め方を示すほうが、本文につながります。
10. 評価を落としやすい答案と直し方
| よくある形 | 弱くなる理由 | 直し方 |
|---|---|---|
| 課題文を長く要約する | 自分の問題設定と取組に使う字数が減る | 背景は2文以内にして3点を予告する |
| 取組が3つとも啓発 | 同じ原因しか見ていない | 意識・担い手・仕組みに分ける |
| 原因なしで施策を並べる | なぜその取組なのか分からない | 各段落に原因を1つ置く |
| 「連携する」で止まる | 役割と実施方法が見えない | 相手、共有するもの、区の役割を書く |
| 国の仕事を書く | 特別区職員としての解答にならない | 相談、助成、協働、基盤整備に置き換える |
| どの自治体にも通じる | 特別区を主語にした意味が薄い | 住民接点、地域差、多様な主体の視点を入れる |
| 結論で新しい施策を出す | 論のまとまりが崩れる | 3点の要約と職員の姿勢だけを書く |
見直しでは誤字だけでなく、各段落の主語を確認します。「重要である」「必要である」が続き、誰が行うのか分からない文は、「区は」「私は」を補います。選択した課題番号、1,000字の下限、3つの予告と本論の順番も最後に確認してください。
11. どれくらい準備すれば仕上がるか
特別区の論文対策では、1つの予想テーマに1本だけ書いて終わるより、分野ごとに複数の論点を持つほうが本番に対応できます。まずは、子育て・少子化、高齢社会・福祉、防災・防犯、環境・まちづくり、デジタル化、地域コミュニティ・多文化共生の6分野を置きます。
各分野で3本ずつ書けば18本です。週2〜3本なら2か月弱で一周します。ただし、18本をすべて暗記する必要はありません。残すのは、原因・取組・対象者・連携相手の4点です。過去に書いた取組を分野ごとに並べておけば、初めて見る課題でも隣接するテーマから組み替えられます。
練習では毎回80分を確保しなくても構いません。平日は本論1段落を300字で書き、週末に5段落を通して書く。添削後はコメントを読むだけで終わらず、修正した段落を手元に残す。書いた材料が蓄積されて初めて、当日の発想量が減っていきます。
本番で考えるのは、用意した材料をどの順番で使うか。材料そのものは、先に作っておきます。